銅板電気パン焼き器

 知り合いの女性が時々フランスの田舎で生まれたカンパーニュ

という自家製の食パンの話をするので、思いだしたことがある。

 

 戦後の極貧時代は毎日食べるもので苦労した。その中で時々

多分輸入品の小麦粉が手に入った。手っ取り早い食べ方は

すいとん」である。舌触りが滑らかで、スープや具を変えて

食べると美味しい。鍋餃子とかスープ餃子より手軽である。

少し手間がかかるが、手打ちうどんは今スーパーで買ってくる

茹でたうどんよりは旨かった。

 

 当時はパンという準主食はまだ日本に定着していなかった。

にも拘らず、私の父は2枚の銅板を組み込んで電気パン焼き器を

作ってしまった。形状とサイズは今のトースター位。

先ず、木の板で今の1斤のパンの形くらいの箱を作る。

両側面、面積の大きい方、いわば、ど出っ腹の内側に

2枚の長方形の銅板を入れる。

銅板は良く洗って、食用油かバターかマーガリンを

塗っておく。

勿論、前もって、銅板には、上部角の部分に電線を

ハンダ付けしてある。

水で練った小麦粉のかたまりを2枚の銅板の間にぎゅう

ぎゅうに入れて通電すればパンが焼きあがる。

但し、真っ白い食パンではなく、蒸しパンのような

出来上がりの筈。

小麦粉が少なかったから、サイコロ状に切ったさつま芋を

入れたが、甘みがついて上等な食べ物になった。

 

 そのパン焼き器はいつの間にか姿を消した。