亡き母とチャイコフスキー「白鳥の湖」

 約50年前、母は破傷風という奇病で54才という若さで突然亡くなった。

太平洋戦争の影響で、今とは違う苦労をしたままで逝かれてしまい、

思い出すと涙がでてくる。

 

 大学に受かった時、よほど嬉しかったのだろう、「何でも買ってあげる」

と云われ、貧乏なのに大丈夫かよと思いながら、「ハイファイ・セット」

と研究社の大型の英和辞典と和英辞典を買って貰った。

 

 浪人時代、日比谷図書館で独学の合間にクラシックの無料コンサートを

聞いていて、買えるようになったら、LPレコードをハイファイ・セットで

聞きたいという夢が思いがけなく叶ったから、先ず、チャイコフスキー

白鳥の湖」を買って来て、針で溝がすり減るのを心配しながら、何度も

何度も聞いた。

 

 人生で「生まれて来て良かった」と思える瞬間があるが、好きなクラシック

をウオークマンでイヤホンを使って聞いている時が至福のときである。

然し、同時に亡き母を思い出して涙が止まらない。

 

 ありがとう、母さん、俺は、ずっと、ずっと、母さんの分も長生きするよ。